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賃貸併用住宅

賃貸併用住宅で起こりやすい9つの失敗を解説。大手ハウスメーカーの高い建築費、相場より高い想定家賃、空室、借り上げ家賃の減額、修繕費、防音、共有名義まで確認します。

更新 2026.08.05読了目安 30分監修:潟沼勇気

賃貸併用住宅は、自宅と賃貸住宅を一つの建物にまとめ、家賃収入によって住宅ローンの返済負担を軽減できる可能性がある住まいです。

一方で、大手ハウスメーカーによる高い建築費を、相場より高い想定家賃と継続的な満室で補う計画では、1室の空室や借り上げ家賃の減額だけで収支がマイナスになることがあります。

この記事では、賃貸併用住宅で起こりやすい9つの失敗と、空室、修繕費、融資、防音、断熱、共有名義、将来の自宅転用まで、建築前に確認したいポイントを解説します。

賃貸併用住宅で失敗を防ぐには、満室時の表面上の収支ではなく、家賃下落、空室、修繕、金利上昇を含めた長期収支を確認することが重要です。

  • 大手ハウスメーカーの建築費を、相場より高い家賃で補う計画は慎重に検証する
  • 1室の空室や借り上げ家賃の減額でも赤字にならないか確認する
  • ローン返済だけでなく、募集費、原状回復費、税金、保険、修繕費を含める
  • 遮音、断熱、玄関、生活動線を自宅と賃貸部分の両方で確認する
  • 土地と建物の名義、相続、共有、賃貸借契約、売却方法を建築前に整理する

賃貸併用住宅そのものが危険なのではありません。住宅としての計画と賃貸事業としての計画を分けず、楽観的な条件で進めることが失敗につながります。

賃貸併用住宅は、自宅部分と賃貸部分が一つの建物に入る住宅です。

賃貸部分から家賃収入を得られるため、土地を所有している人や、建築費の高い都市部で住宅を建てたい人に検討されています。

しかし、通常の注文住宅とは異なり、次の二つの側面を持ちます。

側面主な検討事項
自宅住宅ローン、間取り、耐震性、断熱性、家族の生活動線
賃貸事業家賃、空室率、管理費、修繕費、入居者募集、賃貸借契約

自宅として暮らしやすくても、賃貸経営が赤字になれば家計の負担が増えます。

反対に、賃貸効率だけを優先すると、自宅が狭くなったり、入居者との生活動線が重なったりする可能性があります。

1-1.満室と現在の家賃だけで判断してしまう

賃貸併用住宅の提案では、完成直後の満室家賃を使った収支が示されることがあります。

しかし、長期的には次の変化を考える必要があります。

  • 新築時より家賃が下がる
  • 退去後に空室期間が発生する
  • 周辺に新しい競合物件が増える
  • 入居者募集に広告料が必要になる
  • 設備交換や大規模修繕が発生する
  • 借り上げ家賃が見直される
  • 変動金利が上昇する
  • 固定資産税や保険料が変わる

総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、全国の空き家が900万戸となっています。地域や物件によって状況は異なりますが、新築であれば自動的に入居者が集まるとは限りません。

最初の失敗例は、大手ハウスメーカーで賃貸併用住宅を建てたものの、建築費が高く、想定家賃も周辺相場より高く設定されていたケースです。

大手ハウスメーカーには、耐震性、断熱性、長期保証、アフターサービス、施工体制などの強みがあります。一方で、建築費が高くなれば、借入額と毎月の返済額も増えます。

その収支を成立させるために周辺相場より高い家賃を設定すると、満室でも利益がほとんど残らない計画になることがあります。

例えば、賃貸住戸が3戸ある場合の簡易的な収支は次のとおりです。

収支項目月額
想定家賃 12万5,000円×3戸37万5,000円
ローン返済・管理費・修繕積立・税金などマイナス35万円
満室時の収支プラス2万5,000円
1戸が空室になった場合の収支マイナス10万円
借り上げ家賃が15%下がった場合の収支マイナス3万1,250円

この計画では、満室時でも毎月2万5,000円しか残りません。

1戸でも空室が続けば、毎月約10万円を給与収入などから補う必要があります。

一括借り上げによって空室時の収入減少を抑えられたとしても、借り上げ家賃が見直されれば、満室状態のまま収支がマイナスへ転じる可能性があります。

問題は、大手ハウスメーカーで建てること自体ではありません。高い建築費に対して、相場より高い家賃と継続的な満室を前提にしなければ、収支が成立しないことです。

2-1.新築やブランドを理由に相場より高い家賃を設定した

新築時は、築年数の古い周辺物件より高い家賃で入居者が決まる場合があります。しかし、新築という優位性は時間の経過とともに薄れていきます。

また、建物の施工会社が大手ハウスメーカーであっても、その建築費を家賃へそのまま上乗せできるとは限りません。

入居者は、主に次の条件から物件を比較します。

  • 駅からの距離
  • 部屋の広さと間取り
  • 築年数
  • 設備と内装
  • 周辺環境
  • 管理状態
  • 毎月の家賃と初期費用
  • 周辺にある競合物件の募集条件

周辺の成約相場が月額10万5,000円であるにもかかわらず、収支を成立させるために12万5,000円で計画しても、入居者が決まらなければ意味がありません。

家賃を下げて募集すると、今度はローン返済や維持費を家賃収入だけで賄えなくなる可能性があります。

2-2.満室時の家賃だけで収支を計算した

賃貸経営では、次のような理由で家賃が入らない期間が発生します。

  • 入居者募集から契約までの空室期間
  • 退去後の清掃や原状回復期間
  • 周辺物件の増加による家賃の下落
  • 入居者の家賃滞納
  • 募集条件の見直し
  • 建物の経年による競争力低下
  • 借り上げ家賃の見直し

建築時の家賃査定が月額12万5,000円でも、10年後や20年後まで同じ家賃で貸せるとは限りません。

収支計画では、満室時だけでなく、少なくとも次の条件を確認する必要があります。

確認するケース収支へ反映する条件
満室ケース想定家賃ですべての住戸が稼働
相場家賃ケース地域の成約相場まで家賃を下げる
一部空室ケース1戸が6か月または1年間空室
家賃下落ケース5年後・10年後に家賃が10%から20%下落
借り上げケース手数料と借り上げ家賃の減額を反映
複合悪化ケース空室、家賃下落、金利上昇、修繕費を同時に反映

2-3.家賃査定は複数の管理会社へ依頼する

建築会社が提示する家賃査定だけではなく、計画地周辺で実際に賃貸管理を行っている複数の会社にも確認しましょう。

確認したいのは、最も高く貸せる可能性がある家賃ではなく、長期的に入居者が決まりやすい家賃です。

  • 同じ駅距離、面積、築年数の成約家賃
  • 募集中の家賃ではなく、実際に契約された家賃
  • 新築時と築10年後の想定家賃
  • 入居者が決まりやすい間取り
  • 平均的な空室期間
  • 必要になる広告料やフリーレント
  • 供給が過剰になっている間取り
  • 駐車場や宅配ボックスなどの需要
  • 施工会社の違いが家賃へ与える影響

大手ハウスメーカーの提案を検討するときは、建築費、想定家賃、空室率、借り上げ条件を分けて確認することが重要です。

「満室なら返済できる」ではなく、「1戸が空室でも家計に無理がなく、家賃が下がっても長期保有できるか」を基準に判断しましょう。

家賃収入から差し引かれるのは、ローン返済だけではありません。

賃貸併用住宅では、継続的に次の費用が発生します。

  • 管理委託費
  • 入居者募集の仲介手数料や広告料
  • 退去時の原状回復費
  • 給湯器、エアコン、水回り設備の交換費
  • 外壁、屋根、防水部分の修繕費
  • 共用部分の電気代や清掃費
  • 固定資産税や都市計画税
  • 火災保険や地震保険
  • 税務申告や管理に必要な費用

国土交通省の計画修繕ガイドブックでも、屋根、外壁、給排水管、外構、室内設備などの点検と修繕を計画的に行う重要性が示されています。

3-1.収支がマイナスになる例

次は、賃貸部分が2戸ある場合の簡易的な試算例です。

収支項目年間金額
満室時家賃収入 月9万円×2戸216万円
入居率85%を反映した家賃収入183万6,000円
管理委託費 家賃収入の5%マイナス9万1,800円
入居者募集・原状回復費マイナス18万円
修繕積立マイナス30万円
税金・保険の賃貸部分相当額マイナス25万円
共用電気・清掃・その他マイナス8万円
賃貸部分に対応する年間返済額マイナス120万円
年間キャッシュフローマイナス26万5,800円

満室時の家賃216万円と年間返済額120万円だけを比較すると、96万円の余裕があるように見えます。

しかし、空室と運営費を含めると、年間約27万円の持ち出しです。設備が故障した年や退去が重なった年は、さらに収支が悪化する可能性があります。

なお、手元のお金を確認するキャッシュフローと、税務上の不動産所得は同じではありません。

不動産所得は原則として総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。借入金の元本返済、利息、減価償却費、修繕費などは、それぞれ扱いが異なります。

具体的な税務判断は税理士へ確認しましょう。

賃貸併用住宅では、自宅部分と賃貸部分の床面積、建物の構造、借入名義などによって、利用できる融資が変わることがあります。

一般的な住宅ローンと賃貸住宅向けローンでは、次の条件が同じとは限りません。

  • 金利
  • 返済期間
  • 審査方法
  • 自己資金
  • 自宅部分の床面積割合
  • 家賃収入の評価方法
  • 担保設定
  • 団体信用生命保険

例えば、住宅金融支援機構の子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資では、自宅または非住宅部分の合計が建物全体の延べ面積の4分の1以下であれば、一定の条件のもとで建物全体を融資対象にできる仕組みがあります。

これは一例であり、住宅ローンを利用できる面積条件や家賃収入の算入方法は、金融機関や商品によって異なります。

建築会社から「住宅ローンが使える」と説明されただけで設計を進めるのではなく、金融機関へ直接確認することが大切です。

4-1.融資で確認したい内容

  • 自宅部分と賃貸部分の面積割合
  • 住宅ローンと賃貸住宅向けローンの借入区分
  • 家賃収入を返済能力にどこまで算入できるか
  • 借入可能額と実際に無理なく返せる金額
  • 変動金利が上昇した場合の返済額
  • 空室時に給与収入だけで返済できるか
  • 土地と建物の名義が異なる場合の融資条件
  • 親の土地に子が建築する場合の担保設定
  • 売却や借り換えに関する制限
  • 団体信用生命保険の対象範囲

金融機関による事前審査は、概算間取りと概算収支ができた段階で行います。

最終的な建築契約の前には、確定した設計内容が融資条件を満たしているか再確認しましょう。

サブリース契約や一括借り上げを利用すると、入居者募集や家賃回収などの負担を減らせる可能性があります。

ただし、「30年一括借り上げ」という契約期間と、「30年間同じ家賃が支払われる」という意味は同じではありません。

国土交通省のガイドラインや特定賃貸借契約の重要事項説明書では、家賃が減額される可能性などを契約前に説明することが求められています。

確認したい主なリスクは次のとおりです。

  • 契約期間中でも借り上げ家賃が見直される場合がある
  • オーナーが修繕費を負担する場合がある
  • 免責期間中は賃料が支払われない場合がある
  • サブリース会社から契約を解除される可能性がある
  • オーナー側からの解約には条件が設けられている場合がある
  • 指定された修繕や設備交換を求められる場合がある
  • 売却時にサブリース契約の承継が必要になる場合がある

5-1.サブリース契約で確認したい内容

  • 借り上げ家賃を見直す時期と計算方法
  • 家賃減額に上限が設けられているか
  • 空室や入居者募集時の免責期間
  • 管理費や手数料
  • 原状回復費の負担者
  • 設備交換と大規模修繕の負担者
  • 指定工事会社を利用する必要があるか
  • サブリース会社からの解約条件
  • 所有者から解約する場合の条件
  • 売却時に契約を承継する必要があるか

「家賃保証」という言葉だけで判断せず、借り上げ家賃が10%、15%、20%下がった場合の収支も作成しましょう。

賃貸併用住宅では、入居者の足音、話し声、テレビ、ドアの開閉音、給排水音などが、所有者家族の生活へ直接影響することがあります。

特に注意したいのは、次のような配置です。

  • 賃貸部分の上に自宅の寝室がある
  • 自宅の子ども部屋と賃貸住戸の寝室が隣接している
  • 賃貸住戸の水回りが自宅の寝室に接している
  • 自宅階段と賃貸住戸の壁が隣接している
  • 室外機や給湯器が寝室の近くにある

建築基準や融資の技術基準に適合していても、所有者や入居者が期待する静かさを必ず確保できるとは限りません。

6-1.遮音計画で確認したい場所

場所起こりやすい問題設計時の確認事項
上下階の床足音、椅子を引く音、物を落とす音床構造、仕上げ材、天井下地、防振対策
住戸間の壁話し声、テレビ、生活音界壁の構成、コンセント位置、配管貫通部
水回り排水音、給水音、換気扇の音配管経路、寝室との距離、防音材
玄関・階段ドアの開閉音、足音自宅との位置関係、緩衝材、床構造
室外機・設備振動音、低周波音設置場所、防振架台、隣接する部屋

国土交通省では、賃貸住宅の断熱性能向上や遮音対策に関する大家向けガイドブックも公開しています。

「防音仕様です」という説明だけではなく、床、壁、天井、配管の構成を図面と仕様書で確認することが大切です。

建築費を抑えるため、自宅部分だけ断熱性能や設備仕様を高くし、賃貸部分の性能を最低限にするケースがあります。

しかし、断熱性能が低いと、次の問題につながる可能性があります。

  • 冬の寒さや夏の暑さに関する不満
  • 冷暖房費の増加
  • 窓や壁の結露
  • カビや内装材の劣化
  • 退去の増加
  • 周辺の新築賃貸住宅との競争力低下

2025年4月以降に着工する新築住宅は、一部の例外を除き、省エネ基準への適合が義務付けられています。

ただし、法令上の基準に適合することと、将来も入居者から選ばれる性能であることは同じではありません。

2024年4月からは、新築建築物の販売・賃貸広告における省エネ性能表示制度も始まっています。断熱性能やエネルギー消費性能は、入居者が物件を比較する材料になります。

7-1.自宅と賃貸部分を同じ基準で確認する

  • 断熱等性能等級
  • 一次エネルギー消費量等級
  • 窓のサッシとガラスの仕様
  • 玄関ドアの断熱性能
  • 給湯器の種類と更新費用
  • 結露対策と換気計画
  • 省エネ性能ラベルの表示内容
  • 入居者が負担する光熱費の目安
  • 自宅部分と賃貸部分で異なる仕様

賃貸部分の性能向上には建築費がかかります。

建築時の費用だけでなく、家賃、空室期間、退去率、修繕費への影響も含めて判断する必要があります。

賃貸併用住宅では、所有者と入居者が同じ建物で暮らします。

玄関、階段、駐輪場、駐車場、ゴミ置き場などの配置が悪いと、日常的に顔を合わせたり、お互いの生活時間が伝わったりすることがあります。

よくある失敗は次のとおりです。

  • 自宅玄関と賃貸玄関が隣接している
  • 自宅リビングの前を入居者が通る
  • 賃貸住戸の窓から自宅の庭が見える
  • 郵便受けや宅配ボックスが共用になっている
  • ゴミ出しや共用部分の清掃で揉める
  • 入居者から設備の不具合を直接伝えられる
  • 所有者の子どもの足音が賃貸部分へ響く
  • 防犯カメラが自宅や入居者のプライバシーに影響する

8-1.管理を外部へ委託して距離を保つ

同じ建物に住んでいても、所有者がすべての管理を直接行う必要はありません。

次の業務を管理会社へ委託すると、所有者と入居者の関係を整理しやすくなります。

  • 家賃回収
  • 入居者からの連絡受付
  • 設備故障への対応
  • 入居者募集
  • 賃貸借契約の更新
  • 退去時の立ち会いと精算
  • 滞納への対応
  • 共用部分の清掃

ただし、管理委託費がかかるため、収支計画へ反映させておきましょう。

親が所有する土地に子どもが賃貸併用住宅を建てる場合や、夫婦・兄弟で土地や建物を共有する場合は、権利関係の整理が欠かせません。

建築時は家族関係が良好でも、相続、離婚、認知症、死亡、持分売却などによって状況が変わる可能性があります。

9-1.親の土地に子どもが建てる場合の問題

  • 土地を無償で使用するのか、地代を支払うのか
  • 土地所有者が亡くなった後、誰が相続するのか
  • 他の相続人と土地の利用方針が一致するか
  • 土地と建物の所有者が異なる状態で売却できるか
  • 金融機関が土地への抵当権設定を求めるか
  • 固定資産税や修繕費を誰が負担するか
  • 土地所有者が認知症になった場合に誰が判断するか

9-2.共有名義で建てる場合の問題

民法では、共有物の管理に関する事項は、原則として各共有者の持分価格の過半数で決めるとされています。

ただし、建物の増改築、長期間の賃貸借、売却、抵当権設定などは、行為の内容によって必要な同意が異なる可能性があります。

家族間の口約束だけにせず、少なくとも次の内容を書面で整理しましょう。

確認項目決めておきたい内容
所有権土地と建物を誰の名義にするか
借入債務者、連帯債務者、担保提供者
家賃受取人、管理口座、持分ごとの分配
費用ローン、税金、保険、修繕費の負担
管理入居者募集、契約、修繕を決定する人
相続持分を誰に承継させるか
売却売却の判断方法と代金の分配
解消共有状態を解消する場合の方法

共有不動産や親族間の土地利用は、個別の条件によって法的・税務上の扱いが変わります。

建築前に弁護士、司法書士、税理士、金融機関などへ確認することが重要です。

賃貸部分を、将来は子ども世帯、親世帯、介護スペース、自宅の一部として使う計画もあります。

しかし、普通借家契約では、所有者が「自分で使いたい」と考えただけで、契約更新を自由に拒絶できるとは限りません。

借地借家法では、貸主による更新拒絶や解約申入れについて、次の事情などを考慮した正当事由が必要とされています。

  • 貸主と借主が建物を必要とする事情
  • 賃貸借契約の従前の経過
  • 建物の利用状況
  • 建物の現況
  • 明け渡しに伴う財産上の給付

10-1.定期建物賃貸借も選択肢になる

将来の自宅利用時期が決まっている場合は、定期建物賃貸借を検討する方法があります。

定期建物賃貸借は、期間満了によって契約が終了し、原則として更新がない契約です。

ただし、契約書を作成するだけでなく、更新がなく期間満了で終了することを、契約前に書面または一定の電磁的方法で説明するなど、法令上の手続きが必要です。

期間が1年以上の場合は、期間満了の1年前から6か月前までの間に、契約終了の通知が必要になる点にも注意が必要です。

契約方法を誤ると、更新がない旨の定めが認められない可能性があります。また、定期借家は普通借家より入居者を募集しにくい場合もあります。

将来の自宅転用、入居者募集、家賃への影響を比較し、管理会社や法律の専門家と契約方法を検討しましょう。

収支計画は、一つの想定だけではなく、少なくとも次の3つを作成します。

想定計算条件
標準ケース周辺相場に基づく家賃と通常の空室率
悪化ケース家賃10%下落、空室期間増加、修繕費増加
ストレスケース一部住戸の長期空室、金利上昇、設備交換が重なる

11-1.30年以上の収支で確認する

賃貸併用住宅は、完成直後の1年間だけ黒字でも十分ではありません。

  • 5年後、10年後、20年後の家賃
  • 退去時の原状回復費
  • 入居者募集に必要な広告料
  • 給湯器やエアコンの交換
  • 外壁、屋根、防水部分の修繕
  • 固定資産税と保険料
  • 金利上昇時の返済額
  • 家族の収入減少や教育費
  • 自宅部分を含めた建物全体の維持費
  • 借り上げ家賃が減額された場合の収入

給与収入で赤字を補填し続けなければならない計画は、家賃収入によって住居費を軽減するのではなく、賃貸経営の赤字を家計で負担する状態になる可能性があります。

11-2.表面利回りだけで判断しない

表面利回りは、一般的に年間の満室想定家賃を建築費や事業費で割って計算します。

しかし、表面利回りには、空室、運営費、修繕費、税金、保険などが十分に反映されない場合があります。

確認すべきなのは、次の3つです。

  1. 満室想定家賃から計算した表面利回り
  2. 空室と運営費を差し引いた実質的な収支
  3. ローン返済後に手元へ残る年間キャッシュフロー

建築会社ごとに収支条件が異なると、建物価格や利回りを正しく比較できません。

想定家賃、空室率、管理費、募集費、修繕積立、金利を同じ条件にそろえて比較しましょう。

12-1.建築費と賃貸需要

  • ☐ 建築費と諸費用を含めた総事業費を確認した
  • ☐ 複数の管理会社から家賃査定を取得した
  • ☐ 募集家賃ではなく成約家賃を確認した
  • ☐ ハウスメーカーのブランドが家賃へ与える影響を確認した
  • ☐ 相場より高い家賃でなければ成立しない計画になっていない
  • ☐ 1室が空室になった場合の収支を確認した
  • ☐ 借り上げ家賃が減額された場合の収支を確認した

12-2.収支と融資

  • ☐ 空室率と家賃下落を収支へ反映した
  • ☐ 管理費、募集費、原状回復費を含めた
  • ☐ 30年以上の修繕計画を作成した
  • ☐ 金利上昇時の返済額を確認した
  • ☐ 空室時も家計から無理なく返済できる
  • ☐ 自宅部分と賃貸部分の面積条件を金融機関へ確認した
  • ☐ 建築会社とは別に金融機関へ融資条件を確認した

12-3.住宅性能と間取り

  • ☐ 自宅と賃貸部分の遮音仕様を確認した
  • ☐ 界壁、界床、配管の構造を確認した
  • ☐ 断熱性能と省エネ性能を数値で確認した
  • ☐ 自宅と入居者の玄関・動線を分けた
  • ☐ ゴミ置き場、駐輪場、駐車場を確保した
  • ☐ 設備交換や配管点検がしやすい
  • ☐ 賃貸部分を将来自宅へ転用できる

12-4.権利関係と出口戦略

  • ☐ 土地と建物の所有者を確認した
  • ☐ 共有者全員が事業計画を理解している
  • ☐ 家賃の受取人と費用負担を決めた
  • ☐ 相続後の管理方法を検討した
  • ☐ 普通借家と定期借家の違いを確認した
  • ☐ 入居者がいる状態での売却可能性を確認した
  • ☐ 賃貸を終了する場合の方法を確認した
  • ☐ サブリース契約の解約条件を確認した

向いている可能性がある人慎重に検討したい人
賃貸需要が安定した土地を所有している家賃査定を1社からしか取得していない
空室や修繕に備えた資金がある満室家賃でなければ返済できない
長期保有を前提に考えられる数年以内に売却する可能性が高い
賃貸経営の手間やリスクを理解している管理や入居者対応を一切したくない
家族間の権利関係を整理できる共有者や相続人と話し合えていない
自宅と賃貸の性能を両立できる建築費を抑えるため賃貸性能を下げたい
家賃が下がっても返済を続けられる相場より高い家賃でなければ黒字にならない
複数社を同じ収支条件で比較できる建築会社の収支計画だけで判断している

賃貸併用住宅そのものが危険なのではありません。

土地の需要、建築費、融資、住宅性能、家族の権利関係に合わない計画を進めることが失敗につながります。

賃貸併用住宅の提案を比較するときは、建築費と想定家賃だけで判断しないようにしましょう。

比較項目確認内容
建築費本体工事、付帯工事、外構、設計、諸費用の総額
家賃査定査定根拠、成約事例、空室期間、将来の家賃下落
空室耐性1室が6か月・1年間空室になった場合の収支
借り上げ家賃の見直し、免責期間、修繕負担、解約条件
住宅性能耐震、断熱、遮音、防火、劣化対策
間取り自宅と賃貸の動線、採光、収納、プライバシー
修繕点検周期、交換費、大規模修繕、保証範囲
管理管理委託費、入居者対応、滞納対応、退去精算
融資金利、返済期間、面積条件、家賃算入、担保
出口戦略売却、自宅転用、二世帯住宅への変更

各社で想定家賃、空室率、修繕費、借入条件が異なると、建物の提案を正しく比較できません。

比較条件をそろえた上で、次の順番で判断しましょう。

  1. 周辺相場に基づく家賃を設定する
  2. 空室と家賃下落を反映する
  3. 管理費、募集費、修繕費、税金を差し引く
  4. 借り上げ家賃の減額を想定する
  5. 金利上昇後の返済額を反映する
  6. 自宅の暮らしやすさと賃貸部分の商品力を確認する

賃貸併用住宅で失敗する主な原因は、高い建築費を相場より高い家賃で補う収支計画、空室や修繕費の見落とし、住宅性能や権利関係の確認不足です。

特に、大手ハウスメーカーで建築費が高くなった結果、満室でもわずかな利益しか残らず、1室の空室や借り上げ家賃の減額だけで赤字へ転じる計画には注意が必要です。

建築前に確認したいのは、次の3点です。

  • 相場家賃、空室、家賃下落、借り上げ家賃の減額を含めて収支を計算する
  • 遮音、断熱、プライバシー、メンテナンスを自宅と賃貸の両方で確認する
  • 共有、親族の土地、相続、賃貸借契約、売却方法を建築前に整理する

賃貸併用住宅は、家賃収入を得られる注文住宅であると同時に、長期的な不動産賃貸事業です。

建築会社の提案だけで決めず、複数の管理会社、金融機関、税理士、司法書士、弁護士など、それぞれ異なる立場から確認した上で判断しましょう。

出典・参考資料