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空き家・相続

日本の空き家は900万戸を超えましたが、すべてが放置住宅ではなく、居住誘導区域外でも直ちに居住禁止にはなりません。制度の実態と、実家や土地の所有者が今後確認すべき点を公的資料から解説します。

更新 2026.09.08読了目安 18分監修:潟沼勇気

日本の空き家が900万戸を超え、「いずれ住める場所が制限されるのではないか」「郊外の実家は住めない土地になるのか」と不安を感じる方もいるでしょう。

しかし、900万戸は賃貸募集中・売却中の住宅や別荘を含む空き家総数であり、すべてが放置された危険な住宅ではありません。また、現在の立地適正化計画も、区域外での居住を禁止したり、住民を強制移転させたりする制度ではありません。

一方で、人口と世帯数が減る地域では、公共交通や生活施設、インフラへの投資が拠点周辺へ集まり、土地の使いやすさや売りやすさに差が広がる可能性があります。この記事では、空き家900万戸の内訳、「居住エリア強制制限」という言葉と現行制度の違い、実家や所有地について今から確認したいポイントを解説します。

  • 空き家900万2千戸は空き家総数であり、900万戸すべてが管理されず放置されているわけではない
  • 現行の居住誘導区域は居住禁止区域ではなく、区域外の既存住宅から強制的に移転させる制度でもない
  • 将来は居住の禁止より先に、公共交通、医療、商業、学校、インフラ投資などの利便性に地域差が表れる可能性がある
  • 実家や土地は、現在の価格だけでなく、自治体の都市計画、災害リスク、生活サービス、売却・賃貸需要まで確認して判断する必要がある
  • 相続後に考え始めるのではなく、親が元気なうちから「住む・貸す・売る・解体する・管理する」を比較しておくことが重要

総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査によると、2023年の空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%で、いずれも過去最高でした。2018年からは51万3千戸増え、1993年からの30年間で空き家数は約2倍になっています。

ただし、この900万2千戸をそのまま「放置空き家」と捉えるのは正確ではありません。

1-1.900万2千戸の内訳

空き家の種類戸数空き家全体に占める割合主な内容
賃貸用の空き家443万6千戸49.3%入居者を募集している新築・中古の賃貸住宅など
売却用の空き家32万6千戸3.6%売却のために空いている住宅
二次的住宅38万4千戸4.3%別荘や、普段の住まいとは別に時々利用する住宅
賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家385万6千戸42.8%転勤・入院で長期不在の住宅、解体予定の住宅、利用目的が決まっていない住宅など
合計900万2千戸100.0%調査上の空き家総数

空き家問題を考えるうえで特に注目すべきなのは、賃貸・売却用や二次的住宅を除く385万6千戸です。この区分は2018年から36万9千戸増えました。

もっとも、この385万6千戸にも転勤、入院、建て替えに伴う解体予定などが含まれます。したがって、「900万戸が危険な状態で放置されている」と断定することはできません。統計上の空き家と、管理されず周囲へ悪影響を与える空き家は分けて考える必要があります。

1-2.郊外の実家が空き家になる「第二世代」の問題

これまでの空き家問題は、地方から都市へ移った子世代が、地方に残った親の家を相続しても住まないという構図が中心でした。近年は、それに加えて、高度経済成長期以降に開発された大都市圏郊外の住宅地でも親世代の高齢化が進んでいます。

子世代はすでに自宅を購入している、共働きのため勤務先に近い場所を選ぶ、親の家では通勤や子育てが難しいといった理由から、郊外の実家を引き継いでも住まないケースがあります。こうした動きを「空き家第二世代」と表現する論考もありますが、これは公的統計の正式な分類ではなく、郊外へ空き家問題が広がる状況を示す説明です。

結論からいえば、日本で居住可能な地域を一斉に狭め、指定区域外の住民を強制的に移転させる政策が決まったわけではありません。

話題の背景にあるのは、人口密度を保つ区域や生活サービスを集める区域を自治体が定める「立地適正化計画」です。

2-1.立地適正化計画と居住誘導区域とは

立地適正化計画は、住宅だけでなく、医療、福祉、商業、公共交通などを一体で考え、持続可能な都市構造を目指す自治体の計画です。中心部の1か所へ全員を集めるのではなく、複数の生活拠点を公共交通で結ぶ「コンパクト・プラス・ネットワーク」が基本的な考え方です。

計画では、主に次の区域が設定されます。

区域役割区域外になるとどうなるか
居住誘導区域将来にわたり一定の人口密度を維持し、居住を誘導する区域直ちに居住禁止や建築禁止になるわけではない
都市機能誘導区域医療、福祉、商業などの都市機能を誘導する区域対象施設の立地に届出が必要になる場合がある

国土交通省の立地適正化計画の手引きは、居住誘導区域外だからといって居住を規制したり、強制的に移転させたりするものではないと明記しています。

2-2.区域外でも何のルールもないわけではない

居住誘導区域外でも既存住宅に住み続けることはできますが、一定規模以上の住宅開発や建築は自治体への届出対象となり、必要に応じて勧告を受けることがあります。一般的な一戸建て1戸の建築が、居住誘導区域外という理由だけで一律禁止される制度ではありません。

また、自治体が任意で「居住調整地域」を都市計画に定めた場合、3戸以上の住宅開発など一定の行為に市街化調整区域と同様の開発許可制度が適用されます。これは新たな住宅地の拡散を抑える仕組みであり、既存住民を直ちに退去させる制度ではありません。

土地ごとの建築可否は、居住誘導区域だけでは判断できません。市街化区域・市街化調整区域、用途地域、接道、農地法、災害関連の区域指定などを合わせて確認する必要があります。

2-3.「強制制限」は制度の説明ではなく将来への提言

2026年9月8日に公開されたJBpressの記事では、将来のインフラ維持を考え、居住区域を「誘導」から「集約」へ進めるべきだという筆者の提言が示されています。現在の市街化区域を中心に居住区域を設定し直し、区域外では既存住民の終身居住を認めながら、相続後に土地を国庫などで引き取る案も論じられています。

これは現行制度の紹介や決定済みの政府方針ではなく、筆者による将来政策の提案です。「近いうちに郊外の実家へ住めなくなる」「相続した土地を国が強制的に回収する」と受け取らないよう注意が必要です。

強制移転が現在の政策ではないとしても、都市の集約に関する議論自体は今後も続くと考えられます。背景にあるのは、住宅数、人口、世帯数、インフラ維持費のバランスです。

3-1.人口だけでなく世帯数も2030年以降は減少する見通し

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、出生中位・死亡中位の仮定で、日本の総人口は2020年の1億2,615万人から2070年に8,700万人まで減少し、65歳以上の割合は38.7%になると推計されています。

住宅需要との関係では、人口より世帯数の動きも重要です。同研究所の世帯数推計では、世帯総数は2030年の5,773万世帯をピークに減少し、2050年には5,261万世帯になる見通しです。

推計には前提があり、将来を確定するものではありません。それでも、住宅が増え続ける一方で世帯数が減れば、需要の弱い地域から空き家が増える可能性は高まります。

3-2.低密度の市街地は生活サービスを維持しにくい

人口が広い範囲に薄く住む地域では、道路、上下水道、公共交通、ごみ収集、学校、医療、福祉などを少ない住民で支えることになります。すべての地域で現在と同じサービス水準を維持できるとは限りません。

そのため、将来起きやすいのは「突然住むことを禁止されること」より、次のような緩やかな変化です。

  • バス路線の減便や廃止
  • 学校や公共施設の統廃合
  • スーパー、金融機関、医療機関などの撤退
  • 上下水道や道路更新の優先順位の変化
  • 居住誘導区域内への住宅取得・移転支援
  • 災害リスクの高い区域から安全な区域への移転支援

実際の施策やサービス水準は自治体ごとに異なり、居住誘導区域外だから必ずサービスが縮小されるわけではありません。ただし、自治体が将来どの拠点へ人と機能を誘導するのかは、長期的な住みやすさを考える重要な材料になります。

3-3.立地適正化計画は全国で広がっている

国土交通省の2025年6月資料によると、2025年3月時点で636都市が立地適正化計画を公表し、907都市が計画の作成や運用に取り組んでいました。

計画はおおむね20年後の都市像を展望しつつ、評価結果に応じて見直されます。現在は居住誘導区域内でも、将来の改定で区域が変わる可能性があるため、「一度確認すれば終わり」ではありません。

これから注文住宅を建てる方は、土地価格、駅距離、広さだけでなく、20年後、30年後も生活しやすく、必要なときに売却や賃貸がしやすいかを確認する必要があります。

4-1.最低限確認したい7項目

  • ☐ 自治体が立地適正化計画を公表しているか
  • ☐ 土地が居住誘導区域・都市機能誘導区域の内側か外側か
  • ☐ 市街化区域、市街化調整区域、用途地域、居住調整地域の指定
  • ☐ 洪水、土砂災害、津波、高潮などのハザード情報
  • ☐ 鉄道・バスの運行状況と地域公共交通計画
  • ☐ 学校、医療、買い物、福祉施設までの距離と再編計画
  • ☐ 周辺の人口推計、中古住宅の成約事例、売却までの期間

4-2.居住誘導区域内なら必ず安心とは限らない

居住誘導区域内であることは判断材料の一つですが、資産価値や利便性を保証するものではありません。区域内でも災害リスク、駅からの距離、道路条件、周辺需要によって評価は変わります。

反対に、区域外でも、地域の生活拠点に近い、観光・産業需要がある、農林業などその場所に住む合理性があるといった地域もあります。「区域内だから買う」「区域外だから買わない」と単純化せず、複数の条件を重ねて判断しましょう。

実家が空き家になる可能性がある場合、最も避けたいのは、方針を決めないまま数年放置することです。建物は換気や通水が止まると傷みやすく、時間がたつほど修繕費や管理負担が増える可能性があります。

5-1.5つの選択肢を同じ条件で比較する

選択肢向いているケース主な確認点
自分や家族が住む・建て替える通勤、子育て、老後の生活に合い、長く住む予定がある耐震性、断熱性、修繕費、解体費、再建築可否、住宅ローン
貸す賃貸需要があり、改修費を回収できる見込みがある想定賃料、空室率、修繕、管理委託、初期費用
現況のまま売る早く手放したい、建物にも利用価値がある査定価格、境界、残置物、契約不適合責任の扱い
解体して売る・土地活用する建物の劣化が大きく、土地需要が見込める解体費、固定資産税、接道、造成、活用後の収支
一時的に管理する家族の合意や市場調査に時間が必要管理期限、年間費用、保険、通風・通水、草木・防犯対策

土地活用は建てれば利益が出るとは限りません。アパート、戸建て賃貸、駐車場、貸地などを検討する場合は、建築費だけでなく、賃料、空室、管理費、修繕、借入金利、固定資産税、将来の解体費まで含めた収支を比較する必要があります。

5-2.管理不全空家になる前に動く

2023年12月に施行された改正空家法では、そのまま放置すると特定空家になるおそれがある住宅を「管理不全空家」として、市区町村が指導・勧告できるようになりました。国土交通省の解説によると、管理不全空家または特定空家として勧告を受けた敷地は、固定資産税などの住宅用地特例を受けられなくなる場合があります。

空き家になっただけで直ちに特例が外れるわけではありませんが、屋根や外壁の破損、雑草や樹木の繁茂、ごみの放置などをそのままにしないことが重要です。

5-3.相続登記と税制の期限にも注意する

相続登記は2024年4月1日から義務化されています。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく義務を怠ると10万円以下の過料の対象となる可能性があります。

また、一定の要件を満たす相続空き家を2027年12月31日までに売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。ただし、建築時期、被相続人の居住状況、売却額、耐震改修・除却、相続人の人数など細かな要件があります。適用可否は税務署や税理士へ確認してください。

6-1.所有関係と書類を確認する

登記事項証明書、公図、測量図、固定資産税納税通知書、建築確認関係書類、修繕履歴を集めます。登記名義、共有者、抵当権、未登記建物、境界の状況も確認しましょう。

6-2.自治体の将来計画を地図で確認する

自治体名と「立地適正化計画」「居住誘導区域」「都市計画情報」で検索し、対象地の位置を確認します。地域公共交通計画、公共施設等総合管理計画、学校再編計画、ハザードマップも合わせて見ると、自治体が将来どこへ機能を集めようとしているかを把握しやすくなります。

6-3.建物と土地を別々に評価する

建物に価値が残るのか、改修すれば使えるのか、解体した方が売りやすいのかを分けて考えます。ホームインスペクション、耐震診断、解体見積り、接道・再建築可否の確認が判断材料になります。

6-4.売却・賃貸・活用の数字を同じ期間で比べる

売却査定だけでなく、賃料査定、改修費、解体費、年間管理費、税金、保険料を集めます。土地活用案は表面利回りだけで判断せず、空室や修繕、金利上昇を含む複数の条件で収支を確認しましょう。

6-5.家族で期限を決める

「相続したら考える」ではなく、誰が管理し、いつまでに方針を決め、費用を誰が負担するかを話し合います。親の居住継続を前提にしながら、将来の売却や建て替えに必要な情報だけでも整理しておくと、相続後の負担を抑えやすくなります。

7-1.居住誘導区域外の家には住めなくなりますか?

現行制度では、区域外という理由だけで既存住宅から退去させられることはありません。国土交通省も、居住規制や強制移転を目的とする制度ではないと説明しています。ただし、別の法令や区域指定による建築・開発制限はあり得ます。

7-2.区域外の土地に一戸建てを新築できますか?

居住誘導区域外というだけで一律に新築できなくなるわけではありません。ただし、市街化調整区域、居住調整地域、接道条件、用途地域、農地転用、災害関連の規制などにより、許可が必要または建築できない場合があります。購入前に自治体の都市計画担当課や建築士などへ確認してください。

7-3.居住誘導区域外の土地は必ず値下がりしますか?

必ず値下がりするとは限りません。不動産価格は交通、雇用、人口、生活利便性、災害リスク、土地の形状、道路条件、地域の需給など複数の要因で決まります。ただし、将来の買い手が少なく、生活サービスも縮小する地域では、売却に時間がかかったり価格が下がったりする可能性があります。

7-4.実家は空き家になってから売却を考えても間に合いますか?

売却自体は可能ですが、親が元気なうちの方が、権利関係、境界、書類、修繕履歴、本人の希望を確認しやすいでしょう。空き家になってから時間がたつほど建物が劣化し、残置物処分や管理の負担が増えることもあります。売却を急ぐ必要はありませんが、事前調査は早めに始めるのが現実的です。

日本の空き家900万2千戸は深刻な数字ですが、すべてが放置住宅という意味ではありません。また、「居住エリア強制制限」は現在決まっている政策ではなく、現行の立地適正化計画はインセンティブや届出を通じて長期的に居住と都市機能を誘導する制度です。

ただし、人口・世帯数の減少が進むなかで、どの地域にも同じ生活サービスとインフラを維持することは難しくなります。今後の住宅選びでは、建物の価格や性能に加え、自治体が描く将来の都市構造まで確認する視点が必要です。

相続予定の実家や所有地がある方は、居住誘導区域の内外だけで結論を出さず、建物の状態、法規制、災害リスク、売却・賃貸需要、維持費を整理し、「住む・貸す・売る・解体する・管理する」を同じ条件で比較しましょう。

出典・参考資料