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相続・税金

相続登記義務化の期限、10万円以下の過料、相続人申告登記、相続土地国庫帰属制度を解説。2027年3月31日までに登記が必要な人と、実家・山林・農地などを国に引き渡せる条件、費用、売却との比較方法を整理します。

更新 2026.07.23読了目安 36分監修:潟沼勇気
相続登記義務化の期限、10万円以下の過料、相続人申告登記、相続土地国庫帰属制度を解説。2027年3月31日までに登記が必要な人と、実家・山林・農地などを国に引き渡せる条件、費用、売却との比較方法を整理します

「何十年も前に亡くなった祖父名義の土地が残っている」

「親の実家を相続する予定だが、誰も住むつもりがない」

「売れない土地なら、国に返せると聞いた」

このような状況にある人は、相続登記義務化と相続土地国庫帰属制度を、別々の制度として理解するだけでは不十分です。

2024年4月1日から、相続によって不動産を取得した人には、原則として相続登記を申請する義務が課されています。義務化前に発生した相続も対象で、以前から相続したことを知っている未登記不動産については、2027年3月31日が期限となります。正当な理由なく申請しなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度は、相続した一定の土地を国に引き渡せる制度です。

ただし、「不要な土地なら国が無料で引き取る制度」ではありません。

建物がある土地、担保権が設定された土地、境界が明らかでない土地などは対象外です。審査手数料に加えて、承認された場合は10年分の標準的な管理費用を考慮した負担金を納付します。登記の期限を守りながら、実家や不要な土地を保有、売却、活用、国庫帰属のどれにするかを判断する方法を整理します。

相続登記義務化は、2024年4月1日以後に発生した相続だけを対象とする制度ではありません。

2024年4月1日より前に発生した相続であっても、相続登記が済んでいなければ対象です。

以前から不動産を相続したことを知っていた場合は、原則として2027年3月31日までに対応する必要があります。原則的な期限 |
|---|---|
| 2024年4月1日以後に相続したことと不動産取得を知った | 知った日から3年以内 |
| 2024年4月1日より前から相続したことを知っていた | 2027年3月31日まで |
| 2024年4月1日より前の相続だが、2024年4月1日以後に不動産の存在を知った | 知った日から3年以内 |
| 遺産分割が成立して取得者が決まった | 遺産分割成立日から3年以内に、その内容を反映した登記 |

古い相続では、登記上の所有者が祖父母や曽祖父母のままになっているケースがあります。

この場合、現在の相続人だけでなく、過去の相続関係まで調査する必要があります。時間がかかる可能性があるため、2027年3月31日の直前まで放置しないことが重要です。


遺産分割後にも新たな3年期限がある

相続登記義務には、基本的義務と追加的義務があります。

基本的義務

不動産を相続したことを知った日から3年以内に、相続登記または相続人申告登記を行います。

遺産分割成立後の追加的義務

遺産分割協議が成立し、実際に不動産を取得する人が決まった場合は、その成立日から3年以内に、遺産分割の内容に応じた登記を申請します。相続人申告登記を行った後、兄弟で話し合い、長男が実家を単独取得することが決まったとします。

この場合、相続人申告登記だけで手続きが完了するわけではありません。遺産分割成立日から3年以内に、長男を所有者とする相続登記が必要です。

4-1.遺産分割がまとまらない場合の期限対応

相続人申告登記は、期限内に通常の相続登記を行うことが難しい場合に、基本的な申請義務を履行するための制度です。

次のような場合に利用が検討されます。

  • 相続人が多い
  • 戸籍の収集に時間がかかる
  • 遺産分割協議がまとまらない
  • 遺言の有効性について争いがある
  • 相続関係が複雑で期限に間に合わない

自分が登記名義人の相続人であることを法務局へ申し出ることで、登記官が申出人の氏名や住所などを登記に付記します。特定の相続人が単独で申し出ることもでき、登録免許税はかかりません。義変更を完成させる登記ではない

相続人申告登記は、相続した不動産の権利関係を確定する登記ではありません。

そのため、相続人申告登記だけでは、原則として次の行為を実行できません。

  • 売却
  • 贈与
  • 担保設定
  • 遺産分割の内容を反映した所有権登記
  • 建築融資の利用

不動産を売却、活用または承継する場合は、別途、正式な相続登記が必要です。.2026年開始の所有不動産記録証明制度

親がどの不動産を持っているか分からない場合、相続登記以前に「登記すべき不動産を把握できない」という問題が発生します。

2026年2月2日から、所有不動産記録証明制度が始まりました。

本人または相続人などが請求すると、特定の人が登記名義人となっている全国の不動産を一覧化した証明書を取得できます。窓口請求の場合の手数料は、1通1,600円です。として入力した氏名・住所と、登記簿上の氏名・住所が一致しない不動産は抽出されない場合があります。

親が複数回転居している場合や、旧字体・異体字が使われている場合は、過去の住所や氏名も含めて確認する必要があります。

相続前に確認したい資料

  • 固定資産税の課税明細書
  • 登記事項証明書
  • 権利証または登記識別情報
  • 公図
  • 地積測量図
  • 売買契約書
  • 遺言書
  • 過去の住所が分かる住民票・戸籍附票
  • 農地や山林に関する資料
  • 共有者や隣接地所有者の情報

相続土地国庫帰属制度は、相続した土地を一定の条件で国へ引き渡せる制度です。

2023年4月27日に開始されました。制度開始前に相続した土地も、要件を満たせば申請できます。請できる人

原則として、相続または相続人に対する遺贈によって土地を取得した人が申請できます。

売買や生前贈与だけで土地を取得した人、法人などは、原則として申請対象になりません。有地は共有者全員で申請する

土地を複数人で共有している場合、共有者全員で申請する必要があります。

共有者の一人が相続等で持分を取得し、ほかの共有者が売買等で持分を取得しているケースでも、一定の条件の下で全員による共同申請が可能です。地だけを選んで手放せる

相続放棄では、不要な土地だけを選択して放棄することはできません。預貯金や株式などを含め、被相続人の権利・義務を一切承継しない手続きです。

相続土地国庫帰属制度では、相続した特定の土地を選び、要件を満たせば国へ引き渡せます。ただし、審査手数料と負担金などの金銭的負担があります。.相続登記と国庫帰属制度の関係

7-1.国庫帰属を考えていても期限対応は必要

国庫帰属の申請は、相続人申告登記とは別の手続きです。

法務省が期限内の登記申請義務を簡易に履行する方法として案内しているのは、相続人申告登記です。国庫帰属の審査には標準で8か月程度が想定されているため、2027年3月31日の期限が近い人が、国庫帰属の審査結果だけを待つのは適切ではありません。場合は、次の手続きを並行して検討してください。

  1. 相続人・不動産の調査
  2. 通常の相続登記または相続人申告登記
  3. 土地の売却・活用可能性の調査
  4. 国庫帰属の事前相談
  5. 却下・不承認要件の解消

7-2.相続登記未了でも国庫帰属申請が認められる場合がある

法務省の手引きでは、国庫帰属が承認され、負担金が納付された時点で土地の所有権が国へ移転し、住所変更登記や相続登記がされていない場合は、国が代位登記を行うとされています。登記が未了でも、申請者が土地を相続等で取得したことを必要書類で証明できれば、国庫帰属を申請できる場合があります。

ただし、次の点に注意が必要です。

  • 国庫帰属申請と相続人申告登記は別制度
  • 申請しただけでは土地の所有権は国へ移らない
  • 承認後、期限内に負担金を納付するまで所有者の責任が続く
  • 審査中に相続登記の期限を迎える可能性がある
  • 不承認や取下げになれば土地は手元に残る

国庫帰属を申請するから相続登記は不要、と自己判断せず、管轄法務局や司法書士へ確認してください。

国庫帰属制度には、申請段階で却下される土地と、審査後に不承認となる土地があります。

8-1.申請段階で却下される土地

次の土地は、原則として申請できません。

  1. 建物がある土地
  2. 担保権や使用収益権が設定されている土地
  3. 通路、墓地、境内地、水道用地、用悪水路、ため池など、他人の利用が予定されている土地
  4. 一定の有害物質で土壌汚染されている土地
  5. 境界が明らかでない土地、または所有権の範囲等に争いがある土地

査によって不承認となる土地

申請を受け付けても、次のような土地は不承認となる可能性があります。

  1. 一定の崖があり、管理に過分な費用・労力がかかる土地
  2. 管理や処分を妨げる工作物、車両、樹木などが地上にある土地
  3. 除去が必要な埋設物などが地下にある土地
  4. 隣接地所有者等との争訟がなければ管理・処分できない土地
  5. 災害対策、森林整備、法令上の金銭債務など、通常の管理に過分な費用や労力がかかる土地

界確定測量が必ず必要とは限らない

国庫帰属制度では、すべてのケースで境界確定測量や境界確認書の提出が一律に求められるわけではありません。

一方、境界が明らかでない土地や、隣地所有者との間で境界に争いがある土地は申請できません。申請書には土地の位置・範囲を示す図面や境界点が分かる写真などが必要です。標が見つからない場合や、公図と現況が大きく異なる場合は、土地家屋調査士への相談が必要になる可能性があります。

9-1.審査手数料

国庫帰属の承認申請には、土地一筆当たり1万4,000円の審査手数料が必要です。

申請を取り下げた場合や、却下・不承認となった場合でも、原則として審査手数料は返還されません。記記録上の土地一個を表す単位です。

実際には一つの敷地として使われていても、登記上5筆に分かれていれば、審査手数料は原則として5筆分必要です。

9-2.負担金

国庫帰属が承認された場合は、国が管理する10年分の標準的な費用を考慮した負担金を納付します。

基本額は一筆20万円です。

ただし、次の土地は面積に応じて20万円を超える場合があります。

  • 市街化区域または用途地域内の一定の宅地
  • 市街化区域、用途地域、農用地区域などの一定の農地
  • 森林

る複数筆については、一つの土地とみなして負担金を算定する特例を申し出られる場合があります。担金の納付期限

承認通知と負担金の納入告知書が届いた場合、通知到達日の翌日から30日以内に負担金を納付します。

期限内に納付しなければ承認が失効し、改めて申請からやり直す必要があります。査手数料・負担金以外の費用

実家や管理されていない土地では、次の費用も確認してください。

  • 建物の解体費
  • 家財・残置物撤去費
  • 樹木や竹の伐採費
  • ブロック塀・物置・車両などの撤去費
  • 地下埋設物の調査・撤去費
  • 抵当権などの抹消費用
  • 測量・境界調査費
  • 相続関係書類の収集費
  • 司法書士、土地家屋調査士、弁護士などの専門家費用
  • 承認までの固定資産税
  • 承認までの草刈り・巡回などの管理費

国庫帰属を選ぶ前に、これらを含む総額を確認します。


法務省が公表した2026年6月30日時点の速報値は、次のとおりです。

項目件数申請総数に対する割合
累計申請件数5,698件100%
国庫帰属件数2,885件約50.6%
却下件数83件約1.5%
不承認件数93件約1.6%
取下げ件数1,063件約18.7%
審査中と計算できる件数1,574件約27.6%

割合と審査中件数は、法務省の公表数値を基にした編集部計算です。4%」をどう読むべきか

帰属、却下、不承認という最終判断が出た案件だけを母数とすると、帰属割合は約94.3%です。

しかし、申請総数には審査中1,574件と、取下げ1,063件があります。

取下げの中には、審査途中で却下・不承認相当と分かり、申請者が取り下げた案件もあります。そのため、最終判断が出た案件だけを使った94.3%を、「どのような土地でも高確率で引き取られる」と解釈するのは適切ではありません。ずしも失敗ではない

取下げ理由には、次のようなものがあります。

  • 自治体や国の機関で土地を活用することが決まった
  • 隣接地所有者から引受けの申出があった
  • 農業委員会の調整により、農地として利用される見込みが生じた
  • 審査途中で却下・不承認要件が判明した

口と考えるのではなく、隣接地所有者や自治体などに処分可能性を確認することが重要です。


11-1.家が建っている状態では申請できない

相続した実家に建物が残っている場合、そのまま国庫帰属を申請することはできません。

建物を解体して更地にした後、土地がほかの却下・不承認要件に該当しないことを確認して申請します。解体した後も承認されるとは限らない

建物を解体しても、次の問題が残れば国庫帰属できない可能性があります。

  • 境界が不明
  • 抵当権が残っている
  • 私道や通路として使用されている
  • 地下に古い基礎、浄化槽、井戸などが残っている
  • 擁壁や崖の管理負担が大きい
  • 隣地との紛争がある
  • 土壌汚染がある
  • 大量の樹木・残置物がある

そのため、国庫帰属を前提に建物を解体する前に、法務局の事前相談を利用してください。

11-3.建物付き売却と先に比較する

古い実家であっても、土地の立地や接道条件によっては、建物付きで不動産会社や個人へ売却できる場合があります。

先に解体すると、次の問題が生じる可能性があります。

  • 解体費を負担しても売れない
  • 建物付きで購入したい買主を失う
  • 再建築できない土地だったことが後から判明する
  • 住宅用地に関する固定資産税の扱いが変わる
  • 国庫帰属も不承認となる

解体前に、建物付き売却、更地売却、国庫帰属の3案を比較してください。

第1段階:期限を守れるか

最初に確認するのは、どの処分方法が得かではなく、相続登記の期限です。

  • いつ相続が発生したか
  • いつ不動産の存在を知ったか
  • 遺産分割が成立しているか
  • 2027年3月31日の期限に該当するか
  • 通常の相続登記が間に合うか
  • 相続人申告登記が必要か

第2段階:処分できる状態か

次に、土地の法的・物理的な状態を確認します。

  • 登記名義
  • 共有者
  • 抵当権
  • 境界
  • 接道
  • 建物の有無
  • 残置物
  • 賃借権・地役権
  • 農地法などの規制
  • 崖・災害リスク
  • 土壌汚染
  • 地下埋設物

第3段階:総手残り・総負担を比較する

選択肢入ってくる金額主な支出・負担判断のポイント
現状保有原則なし固定資産税、草刈り、修繕、巡回具体的な利用予定と管理者がいるか
売却売却代金仲介手数料、測量、解体、税金など諸費用控除後の手取りはいくらか
隣地へ売却・譲渡売却代金または管理負担の解消登記、測量、税金など隣地にとって利用価値があるか
賃貸・活用賃料・事業収入建築、修繕、管理、借入金長期収支と承継者を確保できるか
自治体等への寄附原則なし登記・調査費など自治体が受け入れるか
国庫帰属原則なし手数料、負担金、解体・撤去費など法定要件と総処分費を満たせるか
相続放棄財産を承継しない原則として遺産全体を失う相続を知ってから原則3か月以内か

相続放棄は、不要な土地だけを放棄する制度ではありません。預貯金、有価証券、建物、債務などを含む相続全体に影響するため、国庫帰属制度と同じ選択肢として単純比較できません。3.判断チェックリスト

相続登記の確認

  • 登記上の所有者を確認した

  • すべての土地・建物を洗い出した

  • 相続開始日を確認した

  • 不動産を相続したことを知った日を確認した

  • 2027年3月31日の期限に該当するか確認した

  • 相続人を戸籍で確定した

  • 遺言書の有無を確認した

  • 遺産分割協議の状況を確認した

  • 通常の相続登記が期限に間に合うか確認した

  • 間に合わない場合は相続人申告登記を検討した

土地の状態確認

  • 土地上に建物がない

  • 抵当権等が設定されていない

  • 賃借権・地役権等がない

  • 通路・墓地・水路等として使われていない

  • 境界点を確認できる

  • 隣地との紛争がない

  • 土壌汚染の懸念がない

  • 地上に工作物・車両・大量の樹木等がない

  • 地下埋設物の懸念がない

  • 崖や災害対策の負担を確認した

費用の確認

  • 土地の筆数を確認した

  • 一筆1万4,000円の審査手数料を計算した

  • 負担金の概算額を確認した

  • 解体費を確認した

  • 残置物・樹木等の撤去費を確認した

  • 境界・測量関連費を確認した

  • 専門家費用を確認した

  • 承認までの固定資産税・管理費を確認した

ほかの処分方法の確認

  • 複数社から売却査定を取得した

  • 建物付き売却の可否を確認した

  • 隣接地所有者へ意向を確認した

  • 自治体の寄附受付方針を確認した

  • 農地なら農業委員会へ相談した

  • 活用した場合の収支を確認した

  • 家族全員の意向を確認した


Q1.相続登記はいつまでに申請する必要がありますか?

相続によって不動産を取得したことを知った日から、原則として3年以内です。

正確には、次の2つを知った日から3年以内に申請する必要があります。

  • 自分のために相続が開始したこと
  • 自分がその不動産の所有権を取得したこと

そのため、必ずしも被相続人が亡くなった日から3年以内とは限りません。

また、遺産分割協議によって不動産を取得する人が決まった場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を反映した相続登記を申請する必要があります。


Q2.2024年4月1日より前に亡くなった親や祖父母の不動産も義務化の対象ですか?

対象です。

相続登記の義務化は、2024年4月1日以後に発生した相続だけに適用される制度ではありません。

2024年4月1日より前に発生した相続であっても、土地や建物が亡くなった人の名義のまま残っている場合は、原則として相続登記義務化の対象になります。

2024年4月1日より前から、その不動産を相続したことを知っていた場合は、原則として2027年3月31日までに、相続登記または相続人申告登記へ対応する必要があります。


Q3.相続登記の期限を過ぎると、すぐに10万円を支払うのですか?

期限を過ぎた翌日に、自動的に10万円を請求されるわけではありません。

正当な理由なく相続登記の申請義務に違反した場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

一般的には、登記官が義務違反を把握した場合、まず相続人に対して、一定期間内に登記を申請するよう催告します。

催告を受けたにもかかわらず、正当な理由なく申請しなかった場合、登記官から地方裁判所へ通知される仕組みです。

ただし、催告を受けるまで放置してよいという意味ではありません。相続が重なると相続人が増え、戸籍の収集や遺産分割協議が複雑になる可能性があります。


Q4.兄弟で遺産分割の話がまとまらない場合はどうすればよいですか?

期限内に正式な相続登記を行うことが難しい場合は、相続人申告登記を検討できます。

相続人申告登記は、自分が登記名義人の相続人であることを法務局へ申し出る制度です。相続人の一人が単独で申し出ることもでき、基本的な相続登記の申請義務を履行できます。

ただし、相続人申告登記は、誰が不動産を取得するかを確定する登記ではありません。

そのため、相続人申告登記だけでは、原則として不動産の売却、贈与、担保設定などはできません。

後に遺産分割協議が成立した場合は、成立日から3年以内に、実際に不動産を取得した人の名義へ変更する相続登記が必要です。


Q5.相続土地国庫帰属制度を申請すれば、相続登記をしなくてもよいですか?

国庫帰属制度を申請しただけで、相続登記の申請義務を履行したことにはなりません。

相続土地国庫帰属制度と、相続登記または相続人申告登記は、それぞれ別の制度です。

国庫帰属の申請をしても、承認されて負担金を納付するまでは、土地の所有権は国へ移りません。審査中に相続登記の期限を迎える可能性もあります。

期限内に正式な相続登記を行うことが難しい場合は、相続人申告登記を含めた対応を検討してください。

なお、国庫帰属が承認され、負担金が納付された段階で相続登記が済んでいない場合には、国が必要な代位登記を行う取扱いがあります。ただし、個別の手続きは土地の状況によって異なるため、管轄法務局または司法書士へ確認する必要があります。


Q6.空き家が建っている土地を、そのまま国へ引き渡せますか?

建物がある状態では、原則として相続土地国庫帰属制度を利用できません。

建物がある土地は、申請段階で却下される土地の要件に該当します。

実家の土地を国庫帰属させる場合は、原則として建物を解体・除去したうえで申請する必要があります。

ただし、建物を解体すれば必ず承認されるわけではありません。次のような問題が残っている場合は、却下または不承認となる可能性があります。

  • 境界が明らかでない
  • 隣地所有者と争いがある
  • 抵当権などが設定されている
  • 地下に古い基礎、井戸、浄化槽などが残っている
  • 崖や擁壁の管理に大きな費用がかかる
  • 工作物、車両、樹木などが残っている

解体費を支払った後に国庫帰属できない事態を避けるため、解体前に法務局の事前相談を利用することが重要です。


Q7.国庫帰属に必要な費用は20万円だけですか?

20万円だけとは限りません。

まず、申請時に土地一筆につき1万4,000円の審査手数料が必要です。申請を取り下げた場合や、却下・不承認となった場合でも、原則として返還されません。

承認後には、国による10年分の標準的な管理費用を考慮した負担金を納付します。負担金は一筆20万円が基本ですが、次の土地は面積に応じて20万円を超える場合があります。

  • 市街化区域や用途地域内の一定の宅地
  • 一定の農地
  • 森林

さらに、土地の状態によっては次の費用も発生します。

  • 建物の解体費
  • 家財や残置物の撤去費
  • 樹木や竹の伐採費
  • 測量・境界調査費
  • 抵当権などの抹消費用
  • 地下埋設物の調査・撤去費
  • 司法書士や土地家屋調査士などへの依頼費用
  • 承認までの固定資産税・管理費

国庫帰属を検討する際は、審査手数料と負担金だけでなく、申請できる状態にするまでの総費用を確認してください。


Q8.山林や農地も国に引き取ってもらえますか?

山林や農地も、制度上は申請対象になり得ます。

ただし、土地の種類だけで承認されるわけではありません。

例えば、次のような土地は不承認となる可能性があります。

  • 管理のために追加の森林整備が必要な土地
  • 大量の樹木や工作物がある土地
  • 通路や水路として利用されている土地
  • 境界や所有権の範囲に争いがある土地
  • 通常の管理に過大な費用や労力がかかる土地
  • 農地法などの手続きや調整が必要な土地

また、森林や一定の農地については、負担金が面積に応じて算定されます。

農地を相続した場合は、国庫帰属だけでなく、農業委員会を通じた利用者探しや隣接農家への売却・譲渡も確認する必要があります。


Q9.国庫帰属の申請には境界確定測量が必ず必要ですか?

すべての申請で、境界確定測量や境界確認書の提出が一律に必須とされているわけではありません。

ただし、境界が明らかでない土地や、境界・所有権の範囲について争いがある土地は、原則として申請できません。

申請時には、土地の位置や範囲を示す図面、境界点が分かる写真などを提出する必要があります。

次のような場合は、土地家屋調査士への相談や測量が必要になる可能性があります。

  • 境界標が見つからない
  • 公図と現況が一致していない
  • 隣接地所有者と境界の認識が異なる
  • 土地の一部が道路や隣地として使われている
  • 登記面積と実際の面積に大きな差がある

測量費が必要になる可能性も含めて、国庫帰属の総費用を計算してください。


Q10.国庫帰属制度は、申請すれば約94%の確率で承認されるのですか?

申請すれば約94%の確率で承認される、と断定することはできません。

2026年6月30日時点では、帰属、却下、不承認という最終判断が出た案件だけを母数にすると、帰属した割合は約94.3%です。

ただし、申請総数5,698件には、次の案件も含まれています。

  • 取下げ:1,063件
  • 審査中と計算できる案件:1,574件

取下げ案件の中には、審査途中で却下・不承認となる可能性が判明し、申請者が取り下げたケースも含まれます。

そのため、最終判断が出た案件だけで計算した約94.3%を、すべての申請者に共通する承認確率として使用するのは適切ではありません。

実際に承認されるかどうかは、建物、境界、権利関係、工作物、地下埋設物、崖、管理負担など、個別の土地の状態によって判断されます。


Q11.売れそうにない土地なら、最初から国庫帰属を選ぶべきですか?

最初から国庫帰属だけに絞るのではなく、ほかの処分方法も確認することを推奨します。

国庫帰属では、売却代金を得ることはできず、審査手数料、負担金、解体・撤去費などを所有者が負担します。

申請前に、少なくとも次の可能性を確認してください。

  1. 通常の不動産売却
  2. 建物付きでの売却
  3. 解体後の更地売却
  4. 隣接地所有者への売却・譲渡
  5. 自治体などへの寄附
  6. 農業委員会を通じた利用者探し
  7. 賃貸・土地活用
  8. 管理会社への管理委託
  9. 相続土地国庫帰属制度

国庫帰属申請後に、隣接地所有者や自治体などによる引受け・活用が決まり、申請を取り下げた例もあります。

まず売却や譲渡の可能性を確認し、それでも引受け先が見つからない場合に国庫帰属を検討する方が、経済的な負担を抑えられる可能性があります。


Q12.相続放棄と相続土地国庫帰属制度は何が違いますか?

相続放棄と国庫帰属制度では、対象となる財産と手続きの時期が異なります。

項目相続放棄相続土地国庫帰属制度
対象預貯金、株式、土地、建物、債務など相続財産全体相続した特定の土地
土地だけ選べるか選べない要件を満たせば選べる
主な期限相続開始を知った日から原則3か月以内一律の申請期限は設けられていない
申請先家庭裁判所土地を管轄する法務局
費用申立費用や専門家費用など審査手数料、負担金、解体・撤去費など
主な注意点預貯金などのプラス財産も原則として相続できない土地の状態によって却下・不承認となる

相続放棄は、不要な土地だけを選んで手放す制度ではありません。

預貯金や株式などのプラス財産を相続したい場合や、すでに相続放棄の期限を過ぎている場合には、国庫帰属制度や売却など、別の方法を検討することになります。


Q13.相続した土地が複数人の共有名義でも申請できますか?

共有地については、原則として共有者全員が共同で申請する必要があります。

共有者の一人だけが、自分の持分のみを国へ引き渡すことはできません。

兄弟などで共有している場合は、全員が国庫帰属に同意する必要があります。

共有者の中に連絡が取れない人がいる、認知症などで意思確認が難しい人がいる、処分方針に反対する人がいる場合は、そのままでは申請が難しくなる可能性があります。

共有名義にする前に、誰が不動産を取得し、誰が管理や処分を担当するかを遺産分割協議で整理することが重要です。


Q14.国庫帰属の審査にはどのくらい時間がかかりますか?

法務省の案内では、標準的な審査期間としておおむね8か月程度が想定されています。

ただし、次の事情がある場合は、審査に時間がかかる可能性があります。

  • 境界や土地の範囲の確認が必要
  • 現地調査が必要
  • 関係機関との調整が必要
  • 農地や森林である
  • 追加書類の提出を求められた
  • 土地の権利関係が複雑

審査中も土地の所有者は申請者であり、固定資産税の納付や草刈り、建物・工作物の管理などの責任は続きます。

国庫帰属を申請した時点で、管理負担が直ちになくなるわけではありません。


Q15.国庫帰属を検討する場合、最初にどこへ相談すればよいですか?

最初に、土地を管轄する法務局の事前相談を利用してください。

事前相談では、土地の状況や準備した資料を基に、制度の対象になり得るか、申請前に整理すべき問題があるかを確認できます。

相談時には、可能な範囲で次の資料を準備します。

  • 登記事項証明書
  • 公図
  • 地積測量図
  • 固定資産税の課税明細書
  • 現地の写真
  • 境界標の写真
  • 建物や工作物の状況が分かる写真
  • 相続関係が分かる戸籍資料
  • 抵当権などの権利関係が分かる資料

相続登記は司法書士、境界や測量は土地家屋調査士、相続人間の争いは弁護士、税金は税理士など、問題に応じて専門家を使い分ける必要があります。


相続登記と相続土地国庫帰属制度は、どちらも相続した不動産に関する制度ですが、目的は異なります。

相続登記は、亡くなった人から不動産を取得した相続人へ、登記名義を変更するための手続きです。

2024年4月1日から申請が義務化され、2024年4月1日より前に発生した相続も対象になっています。以前から相続したことを知っている未登記不動産については、原則として2027年3月31日までに対応する必要があります。

正当な理由なく申請義務に違反した場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。

遺産分割がまとまらず、期限内に正式な相続登記を行えない場合は、相続人申告登記によって基本的な申請義務を履行できます。

ただし、相続人申告登記だけでは、誰が不動産を取得するかは確定しません。原則として売却や担保設定もできず、遺産分割成立後には正式な相続登記が必要です。

一方、相続土地国庫帰属制度は、相続した一定の土地を国へ引き渡すための制度です。

ただし、不要な土地を無条件・無料で国が引き取る制度ではありません。

次のような土地は、そのままでは申請できない、または不承認となる可能性があります。

  • 建物がある土地
  • 抵当権などが設定されている土地
  • 境界が明らかでない土地
  • 隣地との争いがある土地
  • 工作物や地下埋設物がある土地
  • 崖や擁壁などの管理負担が大きい土地
  • 通常の管理に過大な費用や労力がかかる土地

費用についても、一筆20万円の負担金だけではありません。

土地一筆につき1万4,000円の審査手数料が必要であり、建物の解体、残置物撤去、樹木伐採、境界調査、権利整理などの費用が別途発生する可能性があります。

実家や不要な土地を相続した場合は、次の順番で進めることが重要です。

  1. 相続登記の期限を確認する
  2. 相続人と対象不動産を特定する
  3. 正式な相続登記または相続人申告登記へ対応する
  4. 建物付き売却や通常売却の可能性を調べる
  5. 隣接地所有者への売却・譲渡を検討する
  6. 自治体への寄附や農業委員会を通じた利用者探しを確認する
  7. 国庫帰属の却下・不承認要件を確認する
  8. 解体費、撤去費、負担金を含む総処分費を計算する
  9. 家族の意向を確認して最終的な処分方法を決める

相続登記を済ませることは、不動産問題の解決そのものではありません。

一方で、国庫帰属を利用できると考えて、事前確認をせずに建物を解体することも危険です。

登記の期限への対応と、土地を将来どうするかという出口の検討を同時に進めることが、相続した実家・土地を次の世代へ負担として残さないための重要なポイントです。

出典・参考資料

出典

  1. 法務省「相続登記の申請義務化について」登記の申請義務化に関するQ&A」人申告登記について」土地国庫帰属制度について」土地国庫帰属制度の概要」土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件」土地国庫帰属制度の負担金」土地国庫帰属制度の統計」土地国庫帰属制度のご案内」ンライン「不動産の相続登記義務化!過去の相続分は?」ンライン「相続した土地を手放したいときの相続土地国庫帰属制度」
  2. e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」
  3. 公開時の重要事項

    本記事は、2026年7月21日時点で公表されている法務省、法務局、政府広報オンラインなどの情報を基にしています。

    個別の登記申請、相続人の確定、遺産分割協議書の作成、相続放棄、国庫帰属制度の申請可否については、司法書士、弁護士、土地家屋調査士、税理士または管轄法務局へ確認してください。